【ToO #8】松下睦生 ~やるからには勝ちたい~

公開までずいぶん時間がかかってしまいましたが、夏に一部先行公開した松下睦生選手へのインタビュー本編を公開します。Top of Orienteering 最新記事はオリエンテーリングマガジンでもご覧になれます。

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インカレ優勝、全日本チャンピオン、そして世界選手権代表。とんとん拍子でエリートシーンを駆けあがる松下睦生。普段は京都大学大学院で航空機の強度計算に関する研究しているという。その学び舎にてこれまでのキャリアと今後の目標について聞いた。なおインタビュー序盤、夏に出場した世界選手権やユニバーに向けた抱負を語ってもらった。その部分についてはO-Supportのウェブサイトにて先行公開している。(取材日2016/7/26)

World of Oより引用

World of Oより引用

バランス重視のトレーニング

―ここまで夏のレースに向けての抱負を語っていただきましたが、インカレ優勝、全日本優勝とここ1、2年の躍進は目覚ましいです。自分の中でオリエンテーリングが大きく変わったというか、うまくなったような感覚はありますか?

そうですね。もちろん悪い時期もありましたが、順調に成長してきたとは思います。ここ最近の結果については体力がついたというのが一番大きいと思います。トレーニングを積んで走力がついたことですね。

―さっそくトレーニングの話が出たので多くの人が興味のあるトップ選手のトレーニング内容について聞かせてください。普段のトレーニングではどんなことを意識しているのでしょうか。

まず考えるのは1週間単位でバランスよくと言いますか、この日は強度どのくらいで、距離どのくらいでという重要な日を考えておいて、それに合わせて強度や距離がバランス良くなるように計画を組み立てることです。

―強度を決めたりするためにはそれ以前にもっと大きな目標設定が必要だと思うのですが、それはどのくらい先のことまで考えながらやっていますか?

例えば今年の世界選手権だったら最後のインカレを終わったとき(1年半前)から頭に入れ、それに向けたトレーニングをしてきました。ただ結果的には行けませんでしたが、去年も世界選手権を目指していたので、そこまではそれに向けてのトレーニングをしていたとい言うべきかもしれません。また現地の様子もわからなかったのでその段階ではあまり意味あるトレーニングになっていたかもわからないです。

ただ昨夏に現地のトレーニングキャンプに行ってどんな準備が必要かというイメージを高めて、そこからの1年間というのはこの大会に向けて意識したトレーニングを積んできました。

―だいたい1年くらいにスパンで考えているということでしょうか。

そうですね。ただインカレがあるとどうしても半年に1回は大きなレースがあるので、それまではもうちょっと短いスパンでやっていました。

―そういえば過去の成績を調べていて気になったのですが、秋のレースはあまり成績がよくなく、春のレースのほうが結果がよい傾向があるように思いました。もちろん秋のインカレロング優勝など例外はありますが、ひょっとして春にターゲットを絞っているのかなと思ったりしたのですがどうなのでしょう?

春の方が合わせやすいというのはありますね。秋から冬にかけてのほうがスパンが長くトレーニングをしっかり積めるというのが1つと、あとは暑さの問題。暑いのが苦手で冬の方がしっかりできるということが結果に影響していると思います。

ただこれが今年の世界選手権に向けて苦戦している理由でもあります。特に体力面できちんと調整できているかどうか自信が持てない不安要素になっているというか。

―それは体力面というよりは心理面での不安要素かもしれませんね。ただ暑くなり出してから世界選手権までの短い期間で多少うまくいかなくても、けがをしているのでなければあまり気にしなくてよいのではないでしょうか。

そうですね。そう思って、これまで通り気にせずやっています。

―トレーニングの話を続けますと、トレーニングでは量か質かという命題がありますが、松下さんはどういう考えのもと取り組んでいますか?

まず重視するならば質の方ですかね。特に苦手なスピード面を強化するために重点的に取り組んでいます。

具体的には短いインターバル、よくやっているのは200m20本というのを一番メインにやっています。体の状態と相談しながらですが、できるときはかなり速いペースでそれをやります。

これまではそれをフラットな場所でやっていたのですが、去年スウェーデンに行ってから、整備された道ではなく草原のふかふかしたところでやったほうが筋力面でもよいだろう思って、そういうところでやることに変えました。それは実際にレースで走るときにも実感できるほど大きな成果が出ていると思います。

―200m20本となるとかなり辛いトレーニングだと思いますが、トレーニングは基本1人でやりますか?それとも後輩やクラブの人たちと?

今いるキャンパスが(京大のクラブの拠点がある場所から)離れているので普段は1人やっています。

忙しくても最低限のことはやる

―フィジカル以外のトレーニングは何か取り組んでいますか?世界選手権に向けて地図読みの練習はことあるごとにしているという話がありました。

地図読みは実は普段はそんなにしていなくて、大会直前だからというのが大きいです。今も時間を決めて取り組んでいるというわけではなく、ちょっと時間が空いた時に地図を見て練習するという状態です。

メンタル面についても普段のトレーニングで何かしていると言っていいかはわかりませんが、目標とする大会に向けては気持ちをどうもっていくかとか、不安を感じないようにするのはどうやって考えればいいのかとかみたいなことは、自然と考えるというか、走っている間に頭で考えたり、シミュレーションしたりだとかはあります。

そういった個々のトレーニングを、ほぼ毎週末やっているオリエンテーリング、それはレースだったり合宿だったりしますが、そこで試したり、様子見たりしながら調整し、本番の大会に向かっています。

―技術面では机上だけでなく、例えばコンパスを使った整置や直進、歩測などのスキルがありますが、何か練習していますか?まさか練習しなくてもできちゃってたとか?

いえ、そんなことないです。コンパスは最初の1年目はまったく使っていなくて。関西だったら地形だけ見てればなんとかなるというのもあってあんまり使う機会もなかったので。でも2年の時にJWOCのセレが岐阜の椛の湖であって、そのときコンパスが使えないとどうしようもないと思ってそこから意識して使うようにし、その練習もするようになりました。そういう練習は週末、主に練習会や合宿などでやっています。

―ケガや故障が少ない選手だという印象もありますが、普段気を付けていることなどはありますか?

そうですね。今まで一番大きかったのが捻挫で、1週間くらい休まなければならないことがありましたが、それ以外では2,3日で回復するようなケガをしたくらいです。

普段一番気を付けているのはやっぱりトレーニングのバランスと言いますか、あまりぐっと一気に走りすぎたりすることがないように、徐々に増やしていく、いったん落ちた後も徐々に増やしていくことを心がけているのと、足の疲れ具合と相談して量を減らしたり、走っている途中にそういったことを感じればそこで切り上げたりといったことです。

もちろんストレッチやセルフマッサージも人並みにはやっていますし、特に大会が近いときには入念にやるようにしています。

―辛いトレーニングを続けるために工夫をしていることはありますか?

トレーニングをしない時期を作っていないことですかね。どんなに忙しくても最低限のことはやる、その時間にそこでやると計画で決めたことはやるようにしています。

―ちなみにトレーニング時間や距離なんかはどのくらいやっているのですか?

基本的には距離で管理しています。これがここ4年のトレーニング量ですが(スマホの画面を見ながら)、4年前は月間200kmいくかいかないかくらい、去年1年間は250kmを最低ラインにできました。この1年間で見れば250-300kmで強弱をつけつつコンスタントに走ってこれ、だいたい年間3200kmくらいでしょうか。この距離は普段のトレーニングだけではなく週末のオリエンテーリングを含めての距離です。

WUOC2016より引用

WUOC2016より引用

下りは得意です、とても

―この記録を見ればここ最近の成績の伸びはトレーニング成果の裏付けであることはよくわかりますね。そこに至るまで誰かのアドバイスを受けたりコーチについてもらったりしたのでしょうか?

大学3年の時からありさん(※1)に見てもらっている点が大きいですね。フィジカル面で主に見てもらっています。

もともとトレーニングも何をすればよいかわかっていなかった部分があったので、トレーニングプランの立て方や、インターバルの取り組みもありさんに教えてもらったことを活かした結果です。体幹を鍛える補強運動なども取り組むようになりました。

3年のインカレロングで失敗した後くらいから見てもらっているので、その後の成績の伸びに一番関係していることかもしれません。

―コーチを頼んだきっかけは何だったんでしょう?

ありさんがビラを配っていたです。「フィジカル面でトレーニングのサポートを必要としている人を募集してます、興味ある人は連絡ください」っていうのをたまたま頂いて。明らかに僕が必要としていることばかりだと思って。決め手は「最後に走り負ける人はぜひ」みたいなことが書いてあったことで、ちょうどそのときの大会、7人リレーでしたが、そこでラスポ~ゴールで走り負けて入賞を逃したりしていたのですぐ連絡しましたね(笑)。

住んでいるところが離れているので普段はメールで連絡して、大会や合宿で実際に会って相談したりしながら3年近くお願いしています。

―フィジカルに弱点を感じていた?

はい。今でも短い距離でのスピードは遅いです。3000mも春の合宿で測ったのが10分10秒程度でした。また筋力、登坂力が劣っていました登りはかなり弱いです。

―それは確かに速いとは言えないですね。しかし例えば今年の代表選考会などはその程度の記録の選手とは思えないようなタイムでした。

相対的に森の中の方が速い自信はあります。土の上でも落ちない。もともとそういう傾向はあって、最近の取り組みがあってより強化されたと思います。登りも前よりはよくなったと思います。それは走っていて自分でも実感しています。下りは得意です、とても。

―逆に選手としての強みはどこだと感じていますか?

地図と現地の一致がだいぶ得意だと思うのでそこだと思います。地図を見て前に出てくると予想している景色がきちんと出てくること、リロケートも昔から得意でした。

―下りでスピードを出せるのはナビゲーションがしっかりできている必要があるからで、そちらに秀でているからというのはあるでしょうね。長所を活かしつつ、短所を伸ばしてきたことで総合力が上っている、という印象を受けました。

彼らに勝たなければ優勝できない

―これまでの話について聞かせてください。学部生時代はやはりインカレが大きな目標だったでしょうか?

大きな目標でした。最初の1年のときにインカレを見て以来ずっと。たぶんインカレで優勝したいという気持ちはかなり早い時期から持っていたと思います。初めてエリートを走ったとき、なので2年の時には明確にそう思っていました。負けず嫌いなところもあるのでやるからには勝ちたいというのも大きかったというか。

―ただ同世代には強力なライバルがたくさんいました。今になって成績を振り返れば決して悪くないわけですが、当時傍から見ている限りでは他の選手のほうが目立っていて、その中で彼らに追いつこうと思うことさえ難しいのではないかという印象さえありました。

はい、そうでした。特に最初にエリートを走った2年のロングは一番衝撃が大きくて、尾崎や宮西が入賞し、同世代や後輩が上にいる状態で、彼らとはずっと戦わないといけない、彼らに勝たなければ優勝できないというのは強く思いました。結構大変だな、と。

―でも彼らの存在があったからこそ、がんばれたのだろうし、今のレベルまで成長できたというのも大きいのでは?

そうですね、それはあります。

―ただその2年のときのインカレも13位ということで大学からオリエンテーリングを始めた選手の2年目の成績としては決して悪くはないと思います。そういう意味では松下さんもかなり素質のある選手の1人だったのだと思いますが、オリエンテーリングを始める前にしていたことの影響はあるでしょうか?

高校はサッカーをしていたので多少体力はあったと思いますが、特に秀でているわけではありませんでした。それよりも地図が好きで、よく地図を読んでいたことに優位性があったのではないかと思います。

家族で家の近くの山に出かけたりすることもあり、その時は自分で等高線の入った地図を持って行ったりしていました。地図は本当に好きで、小学校低学年の時には地図を持っていた記憶があります。地図帳を買ってもらって、ただ眺めたりもしていました。

なぜ地図が好きになったのかは本当に思い出せないんですが、今考えれば家族で旅行に行ったりするときに自分が回る場所を決めたり案内したりしていたのが影響しているのかなと思います。見どころがいろいろある中でどうやったら全部回れるかとか効率的に行けるかとか、今で言うところのロゲイニングみたいなことを考えていたので。

ただ地図が好きだったからそうしていたのか、そうしていたことで地図が好きになったのか、どっちが先だったかはわかりません。

高校の時も本当は登山部に入りたかったくらいなんですが、入学先になかったのでサッカー部に入った。

大学に入学していろんなサークルのチラシをもらった中でオリエンテーリングのことを知り、これはぴったりだと思って、最初に行った段階でこれは面白い、と。

―オリエンテーリングの虜になったわけですね。大学卒業後は京都オリエンテーリングクラブに入りました。関西には他にもクラブがある中で京都を選んだのには理由があったのでしょうか?

大学1年の時からよく面倒を見てくれている先輩に誘われたのがあったのと、飲み会などに行ったときに雰囲気がよかった点ですかね。

その先輩の影響は大きくて僕の同期も6人くらい一気に入会しました。近い世代がいっぱい入ってくれたのは嬉しいです。

もし就職で他の場所に行くことになっても今はよそのクラブに入ろうとは思わないですね。そのくらい今のクラブが気に入っています。

World of Oより引用

World of Oより引用

全日本タイトルはすべて獲りたい

―将来の話が出ましたのでずばりお聞きします。今年の世界選手権後の目標は既にお持ちでしょうか?

全日本タイトルはすべて獲りたいと思っています。リレーはメンバー的な問題もあるのですぐには難しいかもしれませんが、個人戦は目標にしています。

それより先は就職することもあって環境面でどうなるか読めない部分もありますが、2年後のアジア選手権を目標にしたいと思っています。

―世界ではなくアジアを目標にするには理由が?

やはり来年以降どうなるかわからないということが大きくで、そんな中でもアジア選手権だったら近い場所で開催されるだろうから準備の面でもなんとかできるのではないかというのがありますね。

―言い方を変えれば、うまくできる環境を構築できればより高いところを目指したいという気持ちがある、と?

はい。

―ライバルは?

まぁ有名な話ですがライバルと言えば細川さん(※2)。なんやかんやでレーニングあまりできていないと言いながら速いですし、今でもいい勝負をしていると思っています。

―昨年はOMMにも出ていました。ロゲイニングやトレイルランなど他のスポーツに興味はありますか?

はい、興味はあります。ロゲイニングは何回か出ていますし、OMMは昨年は体調がよくなくてリタイアしてしまったこともあり、また出たいなと思っています。

―最後にオリエンテーリングの魅力について一言!

いろんな場所でできること、同じ場所でもコースによって印象が違うので、飽きにくい、常に新鮮な気持ちで楽しめることが一番よいですね。オリエンテーリングは本当に一生続けていきたいと思っています。

―明日の夜ユニバーに出発されるという忙しいスケジュールの中、わざわざ時間を取ってくださりありがとうございました。ユニバーで結果を残して、世界選手権に向けてよい状態で臨めるようにしてください。その先も期待しています。

ありがとうございました。

強力なライバルを相手にしても彼らに勝つしかないのだと腹をくくった覚悟の量、コーチを得られるチャンスを逃さない瞬発力、体力技術以上に、選手としての積極性に強さを感じられた。

ユニバーのミドルは93位、世界選手電のミドルは65位と思うように結果を残せなかった。さらに世界選手権のリレーではケガを負い日本チーム失格という結果にもつなげてしまった。その影響もあってか秋のレースでも十分な結果を残したとは言い難い。この結果を受け、彼がどう刺激されるのか。今後の結果に注目したい。

※1 宮本 知江子氏

※2 細川 知希氏


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