Top of Orienteering 第6回は3年連続で日本チャンピオンのタイトルを獲得している谷川友太選手へのインタビュー。Top of Orienteering 最新記事はオリエンテーリングマガジンでご覧になれます。
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3年連続で全日本タイトルを獲り、4つ目の全日本タイトルに王手をかける谷川友太。現在の日本トップ選手の1人でありながら、これまでのトップ選手とはどこか違う雰囲気をもつ不思議な選手だ。彼はなぜオリエンテーリングを続けるのか?全日本大会を1週間ほど前に控えたある日、聞いてみた。(取材日2016/3/10)
最初はやる気なかった
―まず、これまでのことをお聞きしたいのですが、オリエンテーリングは大学に入ってから始めましたか?
はい。高校は弓道、中学は剣道でした。大学に入ってオリエンテーリングを選んだのは高校で一緒だった人に誘われたのと、活動が週2回だったのが大きいです。
名大は平日1回ミーティングと、土日の大会参加だけだったので。最初はあまりやる気はなかったんです。
―それがいつごろからやる気に?
1人でトレーニングするようになったのは3年になってからです。それまではインカレとか「こんな長い距離走るのいや」と思ってました。
―でも1年目からインカレはエリートクラスを走っていますよね?
はい。1年目から7回走ってます。まぁ当時は枠が多かったからですけどね。ミドルは予選もあったし。でも2年で出たロングはもう最後足がつって、全然走れなくて、最後女子選手にも抜かれてました。
―そんな風だったのがなにがきっかけでやる気に?誰かに感化されてとか?
なんだったかな。誰かに言われてやるなんてことはないですよ。ただその頃から毎週のように大会に参加するようになりました。名大はインカレや夏合宿など参加しなきゃいけないイベントがあるんですが、2年まではそういうのにしか出てなかったんですけど。
ああ、思い出した。片塾に入ったからですかね。部内サークルみたいな感じのグループ。なんとなく入ったんです。その人たちはみんながんばっていて、それからがんばるようになったんです。
―トレーニングの効果は抜群で3年目で成績は一気に向上。最下位争いから入賞が狙える位置まで行きました。
はい。でも3年のときはインカレロングの東海セレクション(兼東海インカレ)を通れる気がしませんでした。
当時、東海は4枠だけになっていて、先輩や同級生、後輩に速いのがたくさんいた。その中の4人に入れる自信はなかったです。その中の1人くらいに勝って東海インカレ6位入賞が出来たらいいなと思ってました。けど3位になって通れたんです。あれは嬉しかったですね。
―本番のインカレロングも12位に躍進。4年生ではやはりロングで5位に入賞しました。
4年ではインカレで入賞できるかなと思えるようにはなっていました。ミドルはあんまりよくなかったですけど。
1人では続けられなかった
―しかし入賞こそしていますが、そこまで目立つ印象の選手でもないですよね。僕自身、学生時代の谷川くんのことは見ているはずだけどあまりよく覚えていない。ただそんな選手が今や世界選手権代表で、全日本でも勝てるようになりました。卒業後も高いレベルでオリエンテーリングを続けてきたのはなぜでしょう?
う~ん、まぁ理由みたいのはないです。止める理由がなかったというか。もし止めたら土日やることがなくなっちゃうし、当たり前のように続けてました。
ただ続けるのは1人だったら辛いと思いますよ。
―仲間の存在は必須だと?
はい。
―現在はOLCルーパーに所属していますが、卒業後すぐに入ったのでしょうか?
いえ、ちょっとしてからです。卒業して1年ちょっとしたくらい。最初は断ってました。卒業後の囲い込みみたいな感じの中でどこかのクラブに入るのは嫌だったんで、ちょっと様子見てから入ろうと思って。
ただ土日何もない日があったんです。で、その土日たまたまルーパーの根の上高原大会の試走か何かがあったんです。この試走に行けばオリエンテーリングできる!と思って、そこでクラブに入って参加したんです。
―へぇ、オリエンテーリングする機会を求めてクラブに入ったんですね。そこで知り合ったルーパーの仲間の存在がここまで続けるためには不可欠だったと?
はい。オリエンテーリングしたくて。ただクラブとしてはそんなに活動が多いわけでもないのでクラブ員全員との活動というのは少ないんですけど、ヒロシとかマツケン(※1)とか、世代が近い人と、大会後に一緒に反省しに走りに行ったりしてたのがよかったと思います。
楽しむためにトレーニングする
―普段のトレーニングは?
走ることが主体ですね、やっぱり。
―それは1人で?
1人ですね。クラブでは普段集まることはできないので。
―出身である名古屋大もそう遠くないですが、後輩たちと走ることは?
普段はないですね。土日、練習会で一緒にやることはありますけど。急に行くことにして迷惑かけたりしてますが。
―1人で走るのは毎日? 月間どのくらい走っているものですか?
できる限り。距離はこんな感じです。(走行記録を付けたアプリを見せてくれる)
―月300キロ以上はコンスタントに走っていますね。多いときは500キロを超えています。 ある程度目標設定などトレーニング計画を立てているんでしょうか?
クラブの仲間と強化月間を決めて、そのときは一生懸命走ります。そういうのがないとなかなか走らないので。
―走る以外のトレーニングは?先ほど(翌週に開催される)全日本大会の旧マップを見たりしてましたね。
トレーニングというか予習です。丸も鉛筆ころがして止まったところに打つ、くらいの感じでそんな熱心にしてるわけではないです。結局当日次第だなと思うんで、気休めです。
でも最近走るのはさぼり気味なんですよ。走らなくても速くなる方法はないかなと思って。走ってもあんまり変わらないなと思い始めて、別のなんかいい方法がないかなといろいろ考えています。
―どんなことを考えていますか?
家から出ずに早くなる方法を考えたいと思っています。布団の上で暴れてみたり。まぁ、なんとも言えないです、今は。結局、家の外で走る方がやっぱりよいかなと思い始めてますけど。
―企業秘密?でもこう言っては失礼ですがトレーニングプランや方法はあまり考えていないと思っていましたが、意外とよく考えながらやっているんですね。なぜトレーニングをするんでしょうか?
それはやっぱりオリエンテーリングのためですよ。ちゃんと走れた方がオリエンテーリング楽しいじゃないですか。走れないとレースきついし、負けるとやっぱり嫌ですから。
―誰に負けるのが嫌?
う~ん。。。誰と言うわけではなく。すごく速い人に負けるんだったらわかるんですけど、同じくらいとかそうでもない人に負けるんだったら嫌じゃないですか?
世界に行きたいわけではない
―そんな同じくらいのレベルのライバルたちと競い合う全日本大会が来週に迫っています。
アジア選手権のあった2010年から全日本は毎年エリートクラスに参加しています。2009年の足柄は21A、その前の箕面は20Eに出られたけど、当時はまだ箕面が遠いと思っていて不参加。それより前は全日本大会の存在すら知らなかった。今はもう重要レースです。
―全日本リレーでは今年度、愛知県として初優勝もしました。これで全日本タイトルは残すはロングのみです。
はい。一週間後には全部持ってると思います。うまくいけば。でも全部うまくいくとは限らないですけど。
去年の松本のスプリントも勝ちたかったんです。すごいいいレースだったし。でも尾崎、真保が速かった。けどあれはとてもいいレースだった。
―世界の舞台に向けては?
今年は世界選手権には行かないです。世界選手権も本当は行きたいわけではないんです、遠いから。去年も選ばれてしまったから仕方なく行ったというのが少なからずある。
別に目標とかあってやっているわけはないので。なるべく近くでオリエンテーリングが楽しめればいい。だからそういうところにはもっと目標持ってしっかり取り組んでいる人が行ったほうがよいと思いますよ。
結果だけみたら誰が出ても正直今は変わらない。だったらこれからのことを考えればもっと先を見てやっている人が行ったほうがよい。こんなこと言ったら本当はいけないんでしょうけど。
―このあたりは僕のやってきた感覚とはちょっと違いますね。僕は例えば世界選手権で予選を通過したいと言った目標があって、それに対して頑張るという流れでした。谷川さんはなぜ苦しいトレーニングをしてまでオリエンテーリングを続けるのでしょう?
う~ん、、、
(長考の末)
やっぱりうまく回れるのが楽しいから。それで勝ったらなおのこと嬉しい。そのためにトレーニングもしてる。よいオリエンテーリングができるなら世界とかはあんまり関係ないかも。
リレーは大事
―ちなみに好きな種目は?
ロングは好きですよ。スプリントも。ミドルはそんなでもないかな。なんか中途半端な感じがしちゃって。でも全日本ならどれも重要大会なのでどれがってことはない。
それとは別にリレーは大事ですよ。ルーパーとして出るからにはちゃんと走らなくきゃいけない。クラブのために、ってわけではないですけど、そういう気がします。
―今までで一番印象に残っているレースは何ですか?
さっきも話にでた去年の松本のスプリントはとてもよい出来で印象に残っています。先々週の台湾遠征時の台湾選手権のスプリントも出来はよかった。
―最近のレースが多いんですね。
昔のことはあんまり覚えてないんで。でもさっき話した3年のときの東海インカレで3位になったことは今でも嬉しかったことをよく覚えています。あれは嬉しかったなぁ。
あと一昨年の希望ヶ丘での全日本スプリント。あれは勝つとは思ってなかったから。
楽しいことが大事
―これからもオリエンテーリングを続けたい?
はい。
―続けるために考えていることは?
健康が大事です。年配の人に聞くと目が大事だなとは思います。M80で勝つためには目をいかによくしておくかが大事だと思ってます。エリートは出られる限り出たい。でも35歳になったら一回35Aに出て洗礼を浴びたい(笑)
―長く続けるためにはそもそもオリエンテーリングができる環境がないとできない、という問題もあります。
最近よく言う活性化ですか。でも活性化する必要ってありますかね?
―大会がなくなればオリエンテーリングを楽しむ機会は減るかもしれませんよ?
でも大会たくさんありませんか?愛知にいたらあんまりそういうの感じないです。今では関西も近いと思っているし、そう考えたら近くで大会はいっぱいある。近くで小さくてもいろんな大会があることが一番です。
でも、悪いところでは開催しないほうがいいとは思います。
―悪いところ?
オリエンテーリングをする場所ではないようなところです。走れない、楽しくないところ。そういうところでやる大会にはJOAとしては公認をつけるべきではないとも思います。もちろん公認ではない大会を開く分にはよいとは思いますけど。オリエンテーリング楽しくないのはいろんな面でよくない。
―そこでしか大会が開けなかったら?
そこでしか開けないということはないと思います。それだったら普段からよく入っているところでも、オリエンテーリングになるところでやったほうが楽しい。無理してそんなところでやる必要はない。
―オリエンテーリング以外のロゲイニングなどにも参加されています。そちらもやはり楽しみながらやっている?
はい。好きですよ。12時間とかもっと長いのもやってみたい気もするけど、そんなに走れるかな。
でも装備を自分で買い揃えなきゃできないやつはそこまで。あまりお金をかけずに楽しめるならいい。興味はあるんですけどね、OMMとかアドベンチャーレースとか。その1回のために買って、そこまで真剣にトレーニングするかなぁって思うと。
―谷川さんのキャリアならスポンサーを集めることはできるかもしれません。
あればいいですけど、悪いことできなくなるのがやだなぁって(笑)
―他、最近興味があるものは?
OCAD使えるようになると楽しいかなって。OCADは持っているので家の周りの地図を作ってみたりはしたんですけどまだよくわからない。ロゲイニングの地図とかどうやって作ってます?レーザー測量の地図とかどすればいいんですか?
―来週の(全日本大会前日に開催された)OCADセミナーではまさにそんなことをやるようです。
そうそう、出ようと思ってたんです。それでちょっと使えるようになって何かできたらいいですね。
―それを仕事にするなんて構想は?
そういうんじゃないんです。ただ楽しいかなって、それだけ。
オリエンテーリングを楽しむ機会を追い求めるうちに日本のトップにまで達してしまったというのか。多くのトップ選手に感じられる緊張感はあまりなく、どこかふわっとした返答に、こちらが拍子抜けしてしまうことも。しかし、仲間の存在、オリエンテーリングの本質的な楽しみなど、彼が持つオリエンテーリングへの熱い塊をちらちらと覗かせてもくれる。そんな彼がこの後どこまで記録に残る選手になっていくのか。今後を追いかけたい選手の1人であることは間違いない。
後日談
インタビュー後に行われた全日本オリエンテーリング大会。選手権クラスで谷川選手は4位(選手権対象では3位)となった。レース後、本人に「残念、勝てなかったね」と聞く、
「まぁこんなもんですよ。よいレースができたのでよかったです。」
との返事。確かにタイムは悪くなく、優勝争いに絡むタイムでもあった。よいレースをできたことへの満足感も強く感じられる返事だった。
「でも、勝ちたかったけど」
一瞬見せた悔しそうな表情に彼の成長のもう1つの理由を見ることができた。
※1 OLCルーパーの菅谷裕志氏と松井健哉氏