【ToO #7】吉田 勉 ~成功する選手をみたい~

Top of Orienteering 第7回は日本代表チームの吉田勉ヘッドコーチへのインタビュー。Top of Orienteering 最新記事はオリエンテーリングマガジンでご覧になれます。

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今年も夏の日本代表チームが決まった。各代表チームのトップにあたる世界選手権(WOC)チームを率いる吉田勉。2010年より代表チームに関わり続ける彼に日本チームのこれまでとこれからを聞いた。(取材日2016/4/30)

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代表コーチとしての今とこれまで

―日本チームのコーチとはどのような立場なのでしょう?

正確にはヘッドコーチという役職で、強化選手全体にアプローチしています。ジュニアの強化選手も大会担当コーチ(※1)と並行してアプローチしてきましたが、4月にJWOCのチームが決まったのでその段階でバトンを渡したことになります。長期的な視点では私も関わるので未だ並行して2人で見ているということになるかもしれませんが。

―チームとしての目標やそれに向けてどのような取り組みをしているのでしょう?

基本的には強化委員会で掲げている目標を達成できるように取り組みをしています。2018年までのマイルストーンがあるので(※2)、それに向けて今年の大会でどのくらい成果を上げなければならないか、上げられるかという点から見ています。

今年はフォレスト種目で50位以内を1名出したいと思っています。女子は今年はフォレスト種目に出ないので男子について、ということになります。50位というのは結構きつい目標なんですけれど。リレーは男子についてはアメリカ、カナダなどのチームに勝つことです。要はオーストラリア、ニュージランド以外の非ヨーロッパ国の上に行くというのが目標です。

―その目標に向けてここ1年くらいのタームではどのような取り組みをしてきているのでしょうか?

ここ1年の活動としては、去年までとだいぶ違う点として、強化選手に対しては技術的な話から入るのではなくて、どうトレーニングしていくかという話を中心に指導しています。特に1月の強化選手が決まって最初の合宿で年間トレーニングの組み方とか、技術だけでなくてフィジカルをどうするかとか、心理的な準備をどうするかについて中心的に話をしました。

それは私が香港で開催されたエリートコーチクリニックやオーリンゲンアカデミーに参加して色々話を聞いてきて、資料とかも頂いてきた中で、コーチングとはどのようなものかという考え方が変わってきたためです。何年か前まではコーチを育てようという試みをしていたんですが、なかなかそれは難しくて、今年は選手に自分自身のコーチになってもらおうと思いまして、必要なことに関して伝達しようという手法になっています。(1月の合宿に)強化選手全員が参加したわけではないですが、半数ぐらいが参加してもらって、それに従ってやってもらっています。

―去年と変わったということでしたが、去年まではどう日本チームに関わってきたのでしょうか?

去年(2015年)はコーチではなくて、A強化選手とそれを志望した選手のフォローをする役割でした。代表決定前から個人を長期にフォローする試みです。代表チームが決まった段階で特に男子チームのフォローを、アドバイザーという形で指導もしていました。一昨年(2014年)はWOC代表チームをサポートする役割でしたので、この2年間は合宿の内容や年間計画からは外れています。

―私が代表チームにいた2010年に正式にコーチに就任され、2013年までコーチとしてお世話になりました。

2010年から2013年まではこれから代表を目指すであろう選手のことを見てきました。そのときは全体の合宿計画なども主導してましたが、まわりのフォローも少なくなり仕事だけ増えて疲れてしまったこと、その影響もあり2013年は体調不良でWOCに随行もできず、一度外れた訳です。

その反省も活かし、今年は契約コーチとして関わっています。合宿の企画運営の部分を対価を得てやる事で金銭的、精神的負担感が減ったので全体の計画を含めて見ることが出来ています。選手フォローの部分は相変わらず無償ですが、合宿部分を仕事と割り切ることでこちらの部分を厚く行えるようになりました。

今までも報酬的なものがまったくなかったわけではないですが、その体系がはっきりしておらず、どこまでが仕事でどこからが無償かということが明確ではありませんでした。結局なし崩し的にいろんなことをしなきゃいけなくなって仕事がどんどん増え、コーチ本来の仕事に集中することができないというのがありまして、今年は仕事を明確にして頂いて、その分のペイをしてもらうという形で活動をしています。

ある意味責任をもって取り組むことになっています。こう言うとおかしいのかもしれません、無償だって責任をもってやっているので。でもその辺の考え方を少し変えて、割り切って考えられるように、やらなきゃいけないとこは仕事だという意識のもとにやっています。そのへんでやりやすくはなっています。

コーチはインストラクタではない

―オリエンテーリングのコーチ理論というのは日本ではまだまだ十分に確立していないように思います。特にナショナルチームとなると全国に散らばっている選手をうまくまとめていかなきゃいけないのでより難しい面も多いと思います。例えば選手とのコンタクトの取り方など工夫はあるでしょうか?

強化選手の段階では人数も多いので、個別なコンタクトというのは特別取ってはいません。ただ今までもやってきたことですが、年間計画を選手に出してもらってそれを私のほうで見るとか、場合によっては私のほうでコメントを出すとか、そういったやり取りはあります。それに加えて選手個々とコミュニケーションを多くとるようにしています。

今まではどっちかというとコーチとしてよりもインストラクタとしての関わり方になってしまっていて、やりとりも一方通行的なものになりがちでした。選手の方から何かをするという自発的な部分を削ってしまうという面もあったのではないかという反省もありまして、ボランタリーな部分を活かしてやっていこうというのがあります。かと言って、何もしない、声をかけないというのでもなく、資料を提出してもらったりもしています。まぁ出してこない選手もいるんですが、最終的にはその選手がやる気があるのかどうかっていう問題に関わってきます。

それで4月にWOCのチームが決まりましたので、今現在はWOCのチームの指導というのがメインになります。WOCの選手については、いろいろとコミュニケーションを取っていて、今年は選手のカルテも用意して、いろんなスタッフの人にも入ってもらってやり取りをしていますのでずいぶん様変わりはしているんじゃないかと思います。

今までだと連絡はするけどそれに対してどうだっていう話をすることが非常に少なくて、合宿くらいでしかなかったんですが、今年はメールはもちろん、SNSとかも駆使してコミュニケーション取りつつ、大会で会って話をしたりしながら、人数も少ないので、なんとかやってみようと思っています。

―インストラクタとコーチの違いというのはどんなところにあると思いますか?

インストラクタはやっぱり教えるということが役割ですが、コーチはアドバイスをすることが役割だと思います。あることに関して選手が思うこと、選手がどう捉えているかってところをちゃんと理解することが大事です。語弊もあると思いますがインストラクタはこちらが良いと思う事を教える形になると思うんですけど、コーチングだと選手がどう思っているかというところを拾い上げて、また修正したりってことが必要なんです。海外のコーチも1人で見られるのは3人が限度だって言っていましたので、コーチとして見られる選手の数は限られていると思います。

―だからスタッフにも入ってもらって今年はなるべく選手の考えを拾っていけるようにしている、と?

スタッフに入ってもらっているのは、それよりも選手にいろんな選択肢を与えたいというのがあります。私がトータルでは見てはいるのですが、専門家ではないし、また例え専門家だとしても見方はいろいろあるので、それが選手に合うかどうかはわからない。そうすると例えば私の言っていることは正しいとは限らない、もちろん本人は正しいことを言っているつもりなんですが、そうではないことは絶対にある。特に技術的な話では、もはやトップ選手の技術はイメージの世界なので。基礎的なことができていなければインストラクタ的に話はできるのですが、そこから先のことは教えることでもないので、多くの人の話に触れることでそこを育てるというのもあります。

あと体力的なこととか、心理的なこととか、あるいは栄養学的なこととか、そういうところは専門的な人に入ってもらい意見を言ってもらいつつ、私自身の考え方もあるので、それをうまく融合させて選手に育っていってもらいたいと思っています。すんなり理解できればいいけど、そうじゃなければ聞いとくけど聞いて終わりということになっちゃうんで、それは選手にとってもいいことではない。ディスカッションができるようにし、情報が入るようにし、どう育っていくかは自分で決める、というスタンスでやっています。

ナショナルチームのコーチを募集しますという試みも行っていますが、それは人手が足りないからというのではなく、そういう意味合いもあってやっています。

それからスポーツに関することだけではなく、例えばトレーニングプランを立てるにしてもどうやって成功するかというビジネスに関する視点から見ることも必要だと思っているのでそういった話とか、メンタリティを広げるような活動をしてくれる人が集まればいいなと思っています。こういう風にイメージトレーニングをしろよ、というのではなくて、選手が自分のことを理解する上で助けになったり、考え方がちらっと変わるような話をしてくれたり、といった試みをしてくれる人がいたらいいなとは思っています。

オリエンテーリングって実はアクシデントが多いというか、実際にテレインに入ってしまうと何が起こるかわからないというのがあるので、そういったときにどう対応するかというところが大事で、普段はできているのに大事なレースではできないということもあるし、外的な要因で自分が崩れていくというのもあるので、その辺のところをマネジメントできるようになってほしい、それを手助けしてくれる人がいるとよいかなかと思っています。

日本チームに足りないこと

―人間的な成長を促すという側面も強いですね。現在の日本チームに足らない部分はどんなところでしょう?

技術的なこと体力的なことはもちろんまだまだ世界のトップとは離れているのですが、そもそも自分の力を出しているのかというとその部分は疑問です。

―出し切れていない、と?

出し切れていないと思います。なのでそこをまず出してもらいたいというところがあって、メンタルの部分を強く出していきたいと思っています。で、私ができることは限られているので、それをアドバイスできる人を強く探しているというのもあります。

―まずは実力を出し切るところが最初の課題なわけですね?

はい。WOCの舞台で普段の実力というか、持っている実力を出せること。その段階にもないのに順位とかの目的ってあんまり意味がない。というのも、私たちのレベルではどんな人が出てくるによって順位なんて良くも悪くもなってしまうので、まずできる限りのパフォーマンスを出してどこまで行けるかというのが最初の目標になると思います。

男子に関しては先に挙げた50位というのは意味のある数字で、そのあたりを境に大きな壁がある。2014年の結城君の50位は素晴らしいレースをしたと思いますがその上の集団までは10分の短縮しなければならない。大きな変化をしなければ届かない数字です。2015年の尾崎君も同じ、まずこの壁の下から抜け出すことそれが自分の力を出し切ることになると思います。目標として順位が出せることが、応援してくださるみなさんにとってもわかりやすくてよいことなのですが、それ以上の順位を語るのはその後の事です。

もう1つはコンディショニングの問題です。他のスポーツで言ったら当たり前のことなんですが、レース前のコンディションをどう整えるかということについて今までちゃんとやれていない。やりすぎてはいけないということはわかっている。けれどもどう調整していくかということに関してもう少しちゃんとやらないといけない。

大会直前にトレーニングキャンプという期間を過ごすんですが、強い国にとってここは調整の場であってコンディションを考えながら過ごします。技術的な課題はすでに終わっているわけです。日本はというとせっかく現地に行っているのでここでなんとかテレインに慣れなきゃいけないというのもあってやりすぎちゃう。でも現地でどうするかということよりも普段どうしているかということの方が大事で、普段のプログラムをチェックしてもらって、普段レース前にどんなことをしているかに合わせた調整を本番でやりたい。

逆に、直前に向こうに行ってなんだということはプラスアルファであんまり期待しない、向こうに行って少しでも慣れれば成績がよくなるとかそんなことではなく、こちらでできていることをやってもらいたい。
どうしてもテレインの情報が必要なのであれば、やはり事前に現地に行って準備しておく必要がある。それをできなかったのであれば、その点は諦めろ、というスタンスです。

ただ実際のところ、今年の選手は、尾崎、長縄は6月のトレーニングキャンプに行きますし、そもそも尾崎はもっと前から留学して行っている。松下も去年行っています。なので現地でのイメージをもって準備できます。あとはそのイメージを日本のトレーニングのなかでどう活かしていくかという問題だと思います。

―女子については?

女子は今年はスプリントのみの出場なので、現地情報はそこまで必要ないでしょう。それよりも彼女たちにはテクニックよりはもっと身体づくりをしてもらわなくてはいけないので日本で十分準備できる。ただ初遠征ということもありますが、スプリントといのは想像を絶する舞台なのでその心理的準備を如何にサポートできるかも大事だと思います。

ただWOC以外にもアジア選手権やユニバー代表になっている選手もいて、なかなか1つのことに集中できないというのは難しいところです。WOCだけであれば特化したトレーニングに集中させることができるのですが。

―将来的に結果を出していくためにはやはり事前に現地に入って準備するという取り組みをチームとしてやっていく必要があるのではないでしょうか?

その通りです。体力的なテレインではないところで練習をして、そういうところでは基礎技術が必要だということがわかることが大事で、そういう場所で練習する機会を設けたいというのがあります。

なので今年の提案として、チームとしてのトレーニングキャンプを8月下旬に開催されるWOCに合わせ、トレーニングキャンプや5日間の併設大会に出て練習する、という話もあったのですが、私自身はWOCチームを見なくちゃいけないので他の選手を誰が見るのかという話になって難しかった。しかし年に一回、特に若手を中心とした海外トレキャンをするべきだと思います。

―それは翌年の大会を見据えたキャンプでしょうか?

そうではなくてよいです。次の大会がどこであるかということよりも、北欧で行うのがよいと思います。ちゃんとやらなければだめなところでやらなければならない。体力的なテレインで必要なことは日本でも練習できるので。

北欧に行くには移動時間やお金がかかるというのがありますが、やっぱりあっちに行かないと。結局オーストラリアでも北米でもアジアを出るなら同じくらい時間はかかることを考えれば一番よい選択だと思います。日本的ではない環境の中で生活しつつ、トレーニングするという経験も大事です。

またそれであれば現地コーチを雇うという選択肢も出てくるし、そのほうがよいのではないかと思う。そうなれば私は料理でも作って待っていればいいだけ(笑)。でもコーチの能力からいったらそのほうが絶対によい。その代り選手自身に英語を勉強してもらわないといけない。でもこれはどうしても大事なこと。コミュニケーションをちゃんと取れないと得るものも少ない。

この辺は私にとってもネックで、しゃべれないというのは大きくて、もっともっと英語の能力を、英語だけではなくフランス語やスウェーデン語もできたほうがよいんですが、例えば李(※3)のような活動をする選手が出てくれば、さらにオリエンテーリングの勉強をして体育系の分野に進んでくる人が出てくれば、言うことはないんですが。

私自身、彼にようなことを若いうちにできていればもっと面白かったと思います。オリエンテーリングのこともやりながら語学的なことも高まっている。すごく勉強の意思も高いし、学ぶということとはこういうことかと尊敬しています。素晴らしい活動をしていると思います。

まずは気づくことから

―1,2週間北欧に行くことで日本では練習できないような技術を補うことができるでしょうか?

補うというよりは気づきをしてほしいんです。練習は日本でもできる。でもまず気づかないと意識をもってやらない。そのためにそういう期間が必要だと思います。

向こうにずっといかなきゃ身につかないというなら向こうにいってやるしかない。でもそれをチームとして取り組むのは現実的には無理がある。それこそ個人的に留学してもらうしかない。

ただこれまで留学に行った選手も何人かいるがうまくいったとは言いがたい。なぜかというと、日本でいいかげんにやっていることを向こうに行ってやっている。でも自分は日本ではトップ選手なんだからというのもあって無茶をする。なので基礎的なことをちゃんと理解していないのに、向こうのトップ選手がやっているような難しいことをやってしまい進まない、悩んでしまう。

このあたりはコミュニケーション能力も関連するんでしょうけど、まずは向こうで何が大事なのかを知ってもらい、そして日本できちんと練習してから、そのあとに留学する、ということができれば一番スムーズに進むと思います。みんな能力がなくて伸びないのではない。焦ってしまう。その辺ことを変えていかないと留学をしても実力がぐんと上がることはないと私は思います。

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―ここまではテクニックの話が中心でしたがフィジカル的な面では日本でも十分練習できるのでしょうか?

そうですね。ただいろいろ勉強してフィジカルについても考え方は少し変わってきました。

フィジカルに関してはやっぱりテレインで走らなければならない。それこそ現地で走って感覚を得なくてはいけないのですが、日本でも森を走るとのロードを走るのとでは全然違うのは確か。できるだけテレインに近い条件で走る、なおかつインターバルをするのが大事。

―なぜインターバルなのでしょう?

速いスピードで長い時間走る練習として効果的だからです。持続走だと乳酸値が上がり続けてスピードを維持できなくなります。よってレストをとりながら、速く走る時間をある程度長くできるインターバルトレーニングを行うことに意味があります。

で、インターバルをするとなるとトラックで、という話になりがちなんですが、森の中でインターバルをすることが大事です。北欧でもインターバルをトレーニングに組んでいますが、どこでやっているかというとトラック以外でやることのほうが多い。

そのことから合宿メニューについても考え方が変わって、フィジカルとテクニカルでトレーニングを分けて考えるようになりました。同じコースでも何を目的にするのかというところで、必ずフィジカルを意識してもらう。 たとえば3日間の合宿の中でテクニカルトレーニングだけしていると、もしかしたらフィジカルは落ちてしまうかもしれない。

速度が違うと使っている筋肉が違う。例えば下りなんかはゆっくりやっていると踵から着地してブレーキングをかけているかもしれない。でもトップスピードでやっているときはそんな動きはしない。使っている場所、筋肉が変わる。本来的には走る能力を身につけるためにはレーススピードでテレインを走る必要がある。

それができないのであれば何の要素を練習しているのか意識することが大事。テレインを毎日走ることはできないかもしれない。けどハートレートを上げたり下げたりすることを目的にしているんだとか。登り下りの練習をしているのだとか。

登りの練習はみんなよくする。でも本当は登ったり下ったりすることが問題なので、そういった場面をどう設定するか。そういう視点で見れば森じゃなくても、公園でもできるんですが、そういうことを考えつつ、トレーニングメニューを考える際に強度だけではなく、どこでやるのかということも含めてトレーニングに入れていく必要があるんです。

でもそういうことを考えだすとインターバルがしやすくなる。オリエンティアはトラック走るのが好きではない人は多いので(苦笑)。森だったらやろうと思えるかもしれない。やるのも距離でやる必要はない。3分やって1分レストとか、4分2分とかで上げ下げすることが大事。

さらに地図を持ちつつ、ナビゲーションをしつつ行うのであれば総合トレーニングになっていくことに気づいた。おかげでトレーニングのバリエーションが増えました。

成功する選手をみたい

―このように何年もナショナルチームに関わっているモチベーションはどこにあるのでしょう?

純粋に言うと、オリエンテーリングは長くやっている好きなスポーツなので、その中から成功選手を見たいというのがあります。成功するっていうのは、これまでの最高位を越えて20位以内に入っていくような選手。長年見ていて全然結果が変わらない中で何かできることはないかというのがあって始めました。

ただ私が関わるようになったここ数年でもさほど変わっていないというのも確かで、やっていてよかったと思うことも悪かったこともありましたが、もう少しちゃんとしたものを残したいという気持ちがあって今はやっています。

ダラダラやっていると言われればそうです。その見方から言えば、違う考え方をもってちゃんとやってくれる人が出てくればよいなとは思いますが、そういう人材すら育っていない。本当はそこもやりたかったんです。コーチの育成。

その意図もあってJOA合宿も始めました。初めは違う名前でやっていましたが、その目的はトレーニングのやり方をみんなで知ろうよ、伝えようよというのがありました。選手は選手として、コーチはコーチとして学べる場を作りたいという理想を掲げてやっていたのですがやっぱりだんだん変質してきて、合宿を回すことに一生懸命になってしまったというのもあって、そこでちょっと行き詰ったというのもあって一回離れたというのもあります。

ただその時間に自分自身で研修に出かけたというのが大きかった。なんかあるはずだという想いで参加したのですが、やっぱりあったというのが分かって、知識的なことも増えたし気づきも多かったので、また新しくエネルギーが沸いている状況ですね。

でも本当は、強化委員会のマイルストーンも出していますが、それではだめだと思っています。1年1年の活動では無理だろう、と。選手自体が。やっぱり5年、10年見ていかないといけない。

―5年、10年も?

はい。なぜかというとまた話は戻ってしまうかもしれませんが、トレーニングプランを立てるときに何が一番大事かというと、「あなたはどうしたいの?」と選手に問いかけることが大事なんであって、「実力があるから行きなよ」というような選手選考をしているうちはたぶん変わらないだろうと。今は素人でもなんでもいい。オリエンテーリングが好きで、例えばもうあと5年くらいは続けたいと思っている選手を育てるほうがいいんじゃないのと思っている。そういう選手にしても、オリエンテーリングを続けると、行きたい学校にいけないとか仕事に就けないとかいう話になりますが、そうではない。

例えば受験にしても、なりたい職業に就くためのプロセスにしてもある程度決まっていることなので、それらをうまくマネジメントして自分がオリエンテーリングに使える時間があるうちにちゃんとトレーニングできるように計画を立てればいいと思っていて、そういう考え方をできる選手を育てたい。

女性だったら、いや実際は男性にも大きく関係ありますが、結婚出産育児という問題があります。でも子供ができたら続けられないかというとそういう問題ではなくて、その時間を確保したうえで取り組むことはできるはずで、でもそういうことを含めて考えればやっぱり5年、10年見ておかないといけないでしょう。

「5年10年も必要なの!?」という見方をするのではなく、ちゃんとしようとすればそのくらいの時間が必要になるんです。でもそれはみんな当たり前にしていることのはずです。なりたい職業があったとする。高校の時にそう思ったのであれば、その仕事に必要な知識やスキルを身に着けるために大学へ進学をする、さらに大学で勉強、研究をする。ある職業に就職するという目的のために何年もかけて準備をするわけです。

その中の1つにオリエンテーリングがあってもいんじゃないかと。すべてをオリエンテーリングにかける必要もない。そういう見方、考え方をみんなができるようになってほしい。ある選手が身近な人に相談したときに、「来年チャンスじゃない」「とりあえず2年間がんばってみなよ」とかじゃなくて「だとするならばこのくらいのスパンでやってみるといいんじゃない」という話ができる人が増えてほしい。

そういう考え方を持って取り組んだ経験っていろんなことに役立つはず。英語でコミュニケーションすることも、5年計画のプロジェクトを遂行することも、仕事に役立つ。

例えば大学最初の2年間で実力がついてきて、あと2年学生生活があるというときに、とりあえずその2年間でできるとこまでやってみようという考え方がある。それは確かにわかりやすい。でも本当に結果を出したいと思うのであれば、その2年間は代表になることよりも、せっかく時間があるんだから海外遠征していろんな場所で経験を積んでおくことのほうが重要なんじゃないかと。そしてそこで気づいたことを活かしてトレーニングをしっかりと積みつつ、就職して仕事して、実力が付いたと思ったときに選考会を通って選手権にでれば結果はちゃんとついてくるんじゃないかと、それは可能なんじゃないかと思います。

JWOC、私はすぐJWOCの悪口を言うんですが(苦笑)、JWOCに行けるおかげでみんなレースしかしなくなっちゃった。海外遠征=レースになってしまった。本当はもっと楽しんで遠征をしてほしい。JWOCに行くことになればJWOCのレースのために準備してレースをするでしょ。でもレースで結果を残せるわけではなく、楽しくないことだってある。

昔の、色々な選手権がないころのように、色々な大会に行くことのほうが大事なんじゃないかって思うんです。オーリンゲンは大学の試験の時期に重なっているかもしれないけど、海外の大会はオーリンゲンだけではないので。

ナショナルチームで海外トレキャンをしたいというのもありますが、そうじゃなくても仲間内で海外に行くというのがもっとあったほうがいいんじゃないかと思います。それをどうみんなに伝えていくか、キャンペーンを張りたいですね。

例えばWOCの併設大会に行くツアーを組んで、そこに来てくれた人に現地指導もしながらみんなで観戦も楽しむなんてのもできないかな、なんて。

―まずはオリエンテーリングの楽しさ、本質的な技術への気づきを得て、それから必要なトレーニングをして蓄えていくというプロセスを経た上で代表になるという流れが必要だとお考えなんですね。たしかに十分に楽しいと思っていないと、学校や仕事で大変なことがあっても続かないのではないと思います。

そうです。あとはいきなり5年10年かけてやりたいと思う選手が出てくるわけではないです。ある程度時間をかけて楽しみに触れ、やり方を知らないとそういう考え方にはならない。

いきなりそういう考えができるような選手が出てくるのは誰かが成功したあとでしょう。例えば尾崎が入賞するようなところまで行けば彼のようになりたいと思うロールモデルになるはずです。野球やっている子がプロ野球の誰々選手になりたいというようなのと同じです。海外のトップ選手もいますが、日本のいる限りはピンと来ないでしょう、日本での露出は少ないので。

そういう意味ではJWOCに限らず選手権大会が多くて代表選手がたくさん出るという昨今の状況には憂いていたりもします。代表のステータスが下がり、たいした努力をしなくても代表として走れるようになってしまっている。この状況では長く続けようとする選手が出てこないのではないかと。

まぁとにかく発想の転換を伝えたい。トレーニングの仕方においても、オリエンテーリングとの付き合い方においても。やれることはたくさんあると気が付いたので。オリエンテーリングへののめり込み方というのも整理していくしかないのかな、と。

―2018年の先に何を見据えているでしょうか?

3年後、2019年ノルウェーでのWOCからフォーマットが大きく変わります。フォレストとスプリントに分かれ予選が復活します。これに向けて今から取り組みをしておきたい。

2005年、愛知でのWOCは十分ではなかったかもしれないけどそれなりに盛り上がりがあった。ただそれから10年以上、それといった盛り上がりがない。で、そこで予選が復活する。予選を通過するというのは日本チームにとっては大きな目標だった。だからここでJOAというのではなく、日本のオリエンテーリング界の総力を挙げて予選通過者を出すという盛り上げ方ができないかなと。そういう意味でのリクルートの声掛けができないか。3年では十分ではないかもしれないけど、まずはそれを目指す選手を何人か集め、集まったら「この選手を決勝へ」というのでファンディングもやる。今も寄付制度はありますが、顔も見えみえないしそこまで一生懸命やっている人もいないので魅力的に見えない。でも本当に頑張っている人が見えればお金を出してくれる人もいると思う。競技者登録5000円や指導者登録料を寄付だと思って払っている人がいるんだったらそこに投資してくれる人はいるはず。サポートするほうもそのほうがワクワクする。

強化委員も長くやっているとだんだんワクワクしなくなってしまう。仕事ばっかり回ってくるし、創造的でもなくなってくる。目に見えてワクワクするものを用意したい。なにかトピックがないといけない。


―オリエンピックのような?

そう。選手、個人個人の話ならいつでも思い立った時に頑張ればいいんですけど、組織としてはそういいうトピックを設けたほうがいいんじゃないかと、そういうのがないとやらないんじゃないかと。あと3年間、私自身ががんばれるかというものあるけど、やるなら今しかない。

よいところを振り返ろう

―残り時間も少なくなってきました。最後に代表レベルではなくてもオリエンテーリングをうまくなりたい人へのアドバイスを頂けないでしょうか?

帰ったら振り返りをしましょう。失敗しているところだけではなく、うまく行っているところを振り返り、ちゃんと評価することですね。失敗したことばかり書くと嫌でしょ?

いくつうまく行った場所があるのか数えたり、どうしてうまく行ったのかを考えたり。で、どうしてうまくいったのか、他の場所でもちゃんとやっていたの?ということを考えるとちゃんとやっていないこともある。うまくできているときにやっていることをまずはずっとできるようになる。そうするとレースの結果がまとまってきます。成績がまとまってきたら次にチャレンジすることを考える。まずは何ができて何ができないかを考えることですね。

それから何も考えずに走ってはいけないというのはうまくなるためには守らなければならないことです。どういうふうにしよう、どこを走ろうとプランすることはオリエンテーリングにとって大事なことで、それは立ち止まって考えたってよい。何回立ち止まったってもよいからこれをしようと思ったことをやる。そういうことをやっていくとできないこともわかってくる。とにかく落ち着いて慌てずに。速く走ろうと思っても速く走れないのがオリエンテーリングなので。

あとはそれを一緒に振り返ってくれる人ですね。クラブに入っていれば一番ですが、まずはそういう話ができる仲間を見つけることでしょう。

組織、JOAとしては中級者になるための講習会をもっと開くことが大事だと思います。森に入っていくところが一番難しいので、初心者が来ても道から離れた段階で全然できなくなってしまう。そこをどうやって変えられるかという講習会を開く。

あとはクラス分けについても順繰りにステップアップしていけるようなシステムが必要。ここはすでに提案しているのですが、こういうことができるのであればこのクラスを走れる、という検定のような分け方を用意すること。

ベースがしっかりすればトップを引き上げることにもなる。そのためには練習をしなくちゃいけない、クラブは練習会を開かなくちゃいけない、インストラクタではなくコーチ制度を用意しなくきゃいけない。

ついでに言えばそういった資格を取った人が活躍できる場を作らなくちゃいけない。そのためにはスクールOを推進することではないかと。インストラクタはスクールOができるようにする。今は土曜講座などで学校に導入することはできるだろうし、そもそも指導員の制度設計はそれを目指している。選手への指導はコーチ、今の制度ならディレクターがして、インストラクタは学校向けの内容をする。

コーチの資格はそれがなければインカレのオフィシャルや全日本リレーの監督はできないようにするとか。反対もあるでしょうが、しかしインセンティブがないのにわざわざ資格を取ろうと思う人はいないはずなんです。もう1つ言えば講義の質も上げなければならない。来た人ががっかりするような講義をしていてはいけない。

やることはいっぱいある。でもこういうことをやるなら本気でやる人が30人くらいは必要でしょう。きっとそうなれば商売として成り立つようにもなると思う。

コーチたるもの選手よりもオリエンテーリングのことを理解し、本人よりもその生き方について考えられなければならないのかもしれない。しかし、代表レベルとなればとても高度な知識や経験が問われるだろうが、各世代や各レベルに合わせたコーチングにおいては多くの人が今から活かせることも多いように思う。指導体系の整備はこのスポーツの発展の上で欠かすことはできない。その点からも彼の代表チームでの取り組みには注目が集まる。何よりも選手以上にオリエンテーリングへかける情熱を感じるのは私だけだろうか。それに応える選手が出てくるかどうか。夏の結果が楽しみである。

※1 石澤 俊崇氏

※2 フォレスト種目(ロング、ミドル)では 男女とも 2018年までにディヴィジョン2入り、もしくはディヴィジョン2を維持すること。リレーで男女ともアジア地区で No.1 の成績および全体で 20 位を獲得すること。  スプリント種目ではWOCで2018年までに決勝進出を複数選手(6 名中 2 名以上)だすこと。 混合リレーで 20 位(ディヴィジョン2相当順位)を獲得すること。

※3 李敬史選手。2011年にノルウェーへ留学し、現在はノルウェースポーツ科学大学にて専門知識を学びながら競技を続ける。


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