彼方からの手紙   鈴木康史

 

 お元気ですか?そちらはいかがですか。僕は、相変わらずです。

 9月から月に50キロから100キロぐらいは走っていたのですが、12月の関西セレ以降、体調をこわしたり、寒かったりしてあまり走ってません。やっぱり、インカレとかの目標がないとすぐにどうでも良くなってしまいます。

そうなると、寒さがこたえる季節。トレーニングにも、オリエンテーリングに出かけるのもおっくうになってしまいます。下手をすると完全に家に篭っちゃって、ぜんぜん外に出ない、なんてことになるのだけど、幸いたくさんのHPがあって、そちらの様子がわかるから、こっちで勝手にドキドキする事ができます。もう自分でやるのは無理だけれども、こういった刺激があるので、僕は何とかオリエンテーリングの世界につなぎとめられているのでしょう。みんなが走っているとかいう話を読んで、僕もやらなきゃあな、と毎日思っています。けどなかなかやらないのが情けないところですね。

 

幸せなときは不思議な力に守られてるとも気付かずに

けどもう一回と願うならばそれは複雑なあやとりのようで

 

僕の好きな詩の一節です。筑波最後の一年間、君たちに、準備を尽くす事、それを本当に何度も何度も喋りすぎて、最後に僕は、そんな準備が届かない世界がやっぱりあるんだなあということに気付く事ができました。

それはいつも言っているように、最後の隙間で、いくら準備してもどうにもならない未来の世界で、僕らが勇気を持って飛び込んでいかなくてはならない世界です。

たぶんうまく行っているときには、僕らはその世界に簡単に飛び込む事ができる。うまく行かなくなると、その世界に飛び込むのが恐くなる。そこには不思議な力が働いています。だけど、たぶんそれは、僕らの中に眠っている力なのです。

大事なのはそういう力があるっていうことに気がついて、その力を出す勇気を持つことでしょう。本当の瞬間というのは、いつでもこわいものです。そのときに力を出せるかどうか。逃げ出してしまわないこと。言い訳をしないこと。自分のやることを冷静に見据えること。そして準備を尽くしていること。

そういう領域へのパスポートは、準備を徹底することでしか得られません。準備の中でも、自分の弱いところとの戦いが毎日のようにあると思います。そういった一つ一つを越えて、やるべき事をすべてやったと言い切れたときに、やっとあなたは、準備が届かない世界の前に立っています。

そしてそのときには、毎日の戦いの中で得られた技術が、体力が、集中力があなたを容易に、いや、もしかしたらもはや気すらつかないうちに、その世界に導きいれてくれるでしょう。そうなれば、そこはスリリングで、充実した瞬間で、それ以外では味わえない、体全体がぞくぞくするような、本当に貴重な瞬間です。そこでは、もう何もいりません。結果も、順位も、関係なくて、自分自身が自分であれるような、そんな瞬間が、そこにはあるのです。

インカレまでまだ時間が残っていますね。準備する時間はまだあります。残念ながらそれはあなたの仕事だし、あなたが戦うべきはあなただし、いい思いをするのも、悔しいのもあなただし、だから僕には何も言う権利も義務もないです。それはいらぬおせっかいというものです。が、だけど、ひとりでも多くの人がそういう世界を見ることができればいいなとも思うから、とりあえず、僕は遠くから祈っていることにします。余計なお世話かもしれません。けれど、それぐらいは許されるでしょう。ひそかに祈る、それだけ・・・。

では、インカレで会いましょう。金曜日は仕事が入りそうです。開会式を見られないのが残念。                            2002.1.23