オリエンテーリングの基礎練習 「ベーシックプログラム(BP)」
(1996年5月、技術面での僕の結論その2)

鈴木康史


<ポイント1>
集中すること。自分自身を観察しながら練習してください。オリエンテーリング独自の集中の仕方も身につきます。

<ポイント2>
どのメニューも、走る場所の地図を持って行うものです。なるべく実戦に近い形が効果的ですから、コンパスも持って行いましょう。いつ地図を見ればいいのか、いつコンパスを見ればいいのか、ということがわかってきます。

<ポイント3>
今は何を身につけようとしているのか、ということを常に頭に置いて、しかも実際にレースを走っているイメージで、練習に取り組んでください。例えば正置プログラムであれば、自分はレースの時どのように正置しているのか、もっとうまく出来ないか、などを考えることが大切です。

<ポイント4>
知っている所で何度もやっていると、そのうち飽きてくると思いますが、知っているからといっていいかげんに済ましていては、それこそ無意味ですので、常に新しいテラインでオリエンテーリングしているつもりで取り組んでください。

<ポイント5>
最低週1回は必ずやりましょう。こつこつ続ければ、成果は出てくると思います。成果が出てきたらひとまずは卒業です。だけど、又、さらにスピードをつけようとか、スタイルを変えようとする時には、再び、そのレベルで同様のBPに取り組んでください。 <ポイント6>このプログラムをきちんとこなせば、「マップコンタクト」とはどういうことかが具体的にわかるはずです。

<ポイント7>
工夫してください。ここに書いてあることは、僕のやり方であり、しかも、言葉になり得る部分のみです。言葉に出来ない、直観的に分かるようなことがらは、説明することが非常に困難なので、それは自分で感じ取ってもらうしかないわけです。そのためには、ここに書いてある事柄を、自分なりにアレンジして、自分に合うように作り替えていくことが大事です。

<ポイント8>
以下のプログラムは、オリエンテーリングの「手続き」を最も簡単に表現した、「現在地決定」「方向決定」「方向維持」に常に関わっています(エッセンス参照) 。この事を頭において、自分が今している練習は手続きのどこにあたるのか、ということを常に考えておいてください。部分練習でも大きな位置を見失っていてはいけないのです。


プログラム1 コンパス正置

方法>>走りながら常に正置をする練習。なるべく曲がりくねったコースを走りながら、常に、地図を正置し続ける。正置には、コンパスを使う正置と、まわりの情報からの正置の2種類がありますが、ここではまずは前者を練習します。まずは、きちんとコンパスの針と磁北線を合わせること。立ち止まっても構いません。(サムリーディングはもちろんやろう)。

大事な点>>
「正置する時の一連の動作」を自分できちんと観察する。

目標>>
@地図を見る時には必ず正置する癖をつけよう。
A「いつ」正置すべきかわかるようになろう。
B正置した時に、どのような地図読みをするのか?どのような現地読みをするのか?を知ろう。

解説>>
正置はオリエンテーリングの基礎動作です。まずはとにかく「地図を見る時には正置する」この癖をつけることが大切でしょう。これは、初級者から中級者向けですが、癖がついていない人は、まずはここからです。


プログラム2 現地正置

方法>>
これはプログラム1がある程度できた人が取り組んでください。プログラム1はコンパスを使った正置でしたが、今度は現地の情報を使って正置するというものです。同じように周回コースで、常に現地の情報を使って正置を続けてください。コンパスは持ってもいいですが、現地正置した後の確認に使うようにしましょう。慣れてくれば、本格的な林の中でやるのもいいと思います。

目標>>
@プログラム1の正置と何が違うのかを考えよう。
Aこのような正置をするためにはどのような現地読み、地図読みが必用なのかを知る。
B最終的な目標は、状況に応じてコンパス正置、現地正置が自動的にできること。それぞれの時に必用な現地読み、地図読み(特に前者)も自動的にできること。 解説>>この2種類の正置は、同じようでいて、全然違うものです。これは、手続きにも関わっている重要な違いです。この違いが分かれば、予期とはなにかということもつかめます。

種明かしをすれば、この現地正置の練習というのは、もはや正置の練習ではなく、現地読み、予期の練習なのです。現地の情報をどのように利用するのか、ということの第1歩がこのプログラムです。やってもらえればわかるでしょうが、コンパス正置は現在地がまったくつかめていなくても出来ますが、現地正置ではそういう訳には行きません。ある程度自分の位置が分かってないと出来るものではありません。そのためには予期と、現地情報の的確な利用が必ず必要になってきます。

つまり、この現地正置は、常に手続きの流れの中で正置が行われねばならないのです。現地正置は、手続きの流れにスムーズに乗ってゆくものです(コンパス正置はそうでない場合もある)。現地正置の練習をすることで、この流れも身につけられるのです。


プログラム3 アタック

方法>>
このプログラムは、自分で簡単なコースを組んでおくのがいいでしょう。そのコースで、各コントロールへの「確信度の高いアタック」を何度も行います。もちろん、何度もやれば確信は100%になりますが、練習ですから、常に知らないコントロールにアタックするつもりでやってください。確信を持ったアタックとは、どのような動作が必用なのでしょうか。それを身につけることが目標です。なお、分かりやすくするために、アタックを特に取り上げましたが、チェックポイントでも同じ動作をすればいいことは言うまでもありません。

目標>>
@アタックポイントでの一連の動作を身につける。
Aそのためにはそこに着くまでにどのようなことをしておくべきか、を知る。
Bアタックしている時間にどのようなことを考え、どのような動作をすべきかを知る。 注意点>>アタックしている時に、途中で不安になって地図を見る、ということがしばしば実戦ではあると思います。しかし、えてして、地図を見ても、何も有効な情報は得られず、立ち止まっただけ損、もしくは、そのおかげで外してしまう、という結果になりがちです。このようなことがないように、確信を持ったアタックをすることをこの練習で身につけてください。

解説>>
アタックの時に必用な手続きは、a.現在地の確認-b.方向(コンパス他)と距離(歩測)の確認-c.予期です。アタックポイントでこれだけをきちんと確認していれば、あとはそのとおり進むだけで、不安になることはないはずです(逆に実戦で不安になるということは、何かがあいまいなのだろうとも考えられます。)。この感覚を養ってください。

ところで、不安になる原因として、一番気づかれにくいのがa.の現在地の確認です。しかし、考えてみると、これを曖昧にしたままアタックしても、不安になるのは当たり前です。実は、プランニングでアタックポイントを選び出し、実行でそこに確実にたどり着くことは、ポストにたどり着くこと以上に重要ですから、気をつけましょう。 Mp< また、不安になる原因の中で一番多いのが、b.のうち、方向です。アタックポイントではもちろん方向の確認は出来るのですが、その方向を維持できるかどうかに不安があるという場合が多いようです。これは、もう、こういう練習以前に、身につけておかねばなりませんので、コンパスセット100本とかいう練習をやることですな。

最後のc.予期は、速くなるためには身につけねばならない超重要技術です。「何に向かっているのかを明確に知る」、ということは、簡単そうで、実は非常に奥が深いものです。これは、アタックのみならず、その他の場面でも非常に有効です。これについてはプログラム2でも練習できるのですが、こちらでも練習したらいいでしょう。


プログラム3.5 予期

解説>>
プログラム3のうち、予期だけ取り出してやるのもいいかもしれません。この場合は、コースは組まなくてもいいでしょう。林の中で、常に何に向かっているかを明確に意識し、それが出てきたら次、というリズムを身につけていくことも大切だと思います。ある程度方向維持をしておかないと、ずれてしまいますが、そうなったらなったでリロケートの練習もできます。この練習は、非常に実戦に近いともいえますので、きちんと手続きをすることを心がけましょう。

この場合、ある程度スピードを出して、スピード維持にも注意を向けると、より一層高度な練習になります。スピードの維持と手続きというのは、共に非常に集中力を必要としますが、この二つへの集中の振り分け方が身につくと思います。例えば、トップスピードで走りながら、方向を維持し、なおかつ予期もきちんとする、というのは並大抵ではできません。

また、工夫によっては、ラフ-Oの練習にもなります。ラフに走って、すばやく現在地を一点に絞る、というリズムも身につけられるかもしれません。ただし、これは、できる山が限られているでしょう。(公園ではやりにくい)


おわりに>>
最後に、もう一度念を押しておきますが、集中して、自分を観察して、自分なりの工夫を加えて、行わないと、このトレーニングは真の効果を表しません。各自の自律的な練習を期待してます。常に「考え」てください。

また、これ以外に、サムリーディング、コンパス走、コンタリング、歩測などの単純な各技術も、取り上げてもよかったのですが「反復しなさい」以外には言うことはないので、これは各自におまかせします。もちろんこれらも出来ないと話になりません。さらには走力トレーニングはあたりまえ。

そして最終目標は「自動化」です。必要な動作が意識せずに出来ているようになる事が、流れるようなオリエンテーリングには不可欠です。そのためには反復練習しかありません。もともとオリエンテーリングは認知的なスポーツですが、それでも、自動化できる部分は非常に多いと最近は考えています。どこまで自動化できるのか、地図読みは自動化できるのか、などの疑問は残るのですが、それを我々が開拓してゆかねばならないのでしょう。